夕映えの鏡 VOL.2 ―告白の駅前―
改札の柱にもたれながら、
“あき”は、
手の中の缶コーヒーがぬるくなるのを感じていた。
夕方の駅前。
人の波が、
規則正しく流れていく。
スーツ姿の人々の中に、
見慣れた背中を見つけたのは、
日が傾きかけた頃だった。
(来た。)
父は、
いつものように無言で改札を抜け、
足早に歩き出す。
あきは、
一歩前に出た。
「父さん。」
その声に、
父が立ち止まる。
振り返ったその顔は、
驚きと、
少しの警戒をにじませていた。
「どうした。こんなところで。」
「話があるんだ。」
「今から帰るところだ。家で――」
「家じゃ、言えない。」
その言葉に、
父の眉がわずかに動いた。
あきは、
深く息を吸い込んで、
まっすぐに父の目を見た。
「俺――
妹を、愛しています。」
駅前のざわめきが、
一瞬だけ遠のいたように感じた。
父は、
何も言わなかった。
ただ、
じっと、あきを見ていた。
その視線は、
怒りでも、驚きでもなく、
ただ、
“本気か”と問いかけるような、
静かな重さを持っていた。
あきは、
その視線から目をそらさなかった。
「兄妹としてじゃない。
ひとりの人間として、
ひなを愛しています。」
言葉は、
震えていなかった。
それが、
あきの中で、
どれだけ長く温められてきた想いかを、
父はきっと、
感じ取っていた。
駅のホームに、
電車が滑り込む音が響いた。
けれど、
ふたりの間の空気は、
微動だにしなかった。
夕映えの鏡 VOL.2 ―言葉にならない未来―(つづき)
父は、
黙ったまま、
あきを見つめていた。
その沈黙に、
あきは自分の心臓の音が聞こえる気がした。
けれど、
逃げなかった。
「…婚姻は、できないってことは、
わかってます。」
その言葉に、
父の目がわずかに細くなる。
「でも、
それでも、
俺は――
ひなと、
家族になりたいと思ってる。」
「……。」
「子どもも、
…いつか、
ふたりの間に授かれたらって、
そう思ってる。」
言いながら、
自分でもその言葉の重さに、
少しだけ息が詰まった。
(まだ、
プロポーズもしてないのに――
でも、
それでも、
この気持ちは本当なんだ。)
「まだ、
ちゃんとひなに言えてない。
プロポーズも、してない。
でも、
俺の中では、
もう決まってるんです。」
父は、
ゆっくりと視線を落とした。
そして、
ポケットからタバコを取り出し、
一本くわえた。
火をつけることなく、
ただ、口にくわえたまま、
ぽつりとつぶやいた。
「…お前は、
それを“覚悟”って呼ぶのか。」
あきは、
答えなかった。
けれど、
その沈黙が、
すべてを語っていた。
駅のホームに、
次の電車が滑り込む音が響いた。
父は、
その音に背を向けたまま、
しばらく空を見上げていた。
夕映えの鏡 VOL.2 ―もうひとつの秘密―(つづき)
父がタバコをくわえたまま、
空を見上げている。
その横顔を見ながら、
あきは、
もうひとつの言葉を飲み込んでいた。
けれど、
ここで言わなければ、
きっと一生、言えない気がした。
「…それと、父さん。」
「ん?」
「俺、もうひとつ――
パパとママに、
ずっと言えなかったことがある。」
父は、
ゆっくりと視線を戻した。
あきは、
少しだけうつむいて、
それから、
まっすぐに顔を上げた。
「俺、
女の服を着るのが好きなんだ。」
風が、
ふたりの間をすり抜けていく。
「女装って言われるかもしれないけど、
俺にとっては、
ただ、
“自分が落ち着くかたち”なんだ。」
父は、
何も言わなかった。
その沈黙に、
あきは続けた。
「ひなは、
それも知ってる。
知ったうえで、
“それも含めて、あきが好き”って言ってくれた。」
その言葉を口にしたとき、
あきの声が、
ほんの少しだけ震えた。
「だから俺、
あの子と一緒に生きていきたいって、
本気で思ってる。」
父は、
タバコを指でくるくると回しながら、
しばらく黙っていた。
そして、
ぽつりとつぶやいた。
「…お前、
ずいぶん遠くまで来たんだな。」
その言葉が、
責めなのか、
驚きなのか、
それとも――
ほんの少しの理解なのか、
あきには、まだわからなかった。
けれど、
その言葉を聞けただけで、
胸の奥が、
少しだけ軽くなった気がした。
夕映えの鏡 VOL.2 ―ふたつの食卓―
その夜、
家の食卓には、
いつもと変わらぬ和食が並んでいた。
焼き魚、
ほうれん草のおひたし、
味噌汁に、
炊きたてのごはん。
あきも、ひなも、
何も言わずに箸を動かしていた。
母は、
いつも通りに笑い、
父も、
いつも通りに黙って食べていた。
けれど、
その沈黙の中に、
どこか、やわらかな余白があった。
(言葉にしなくても、
伝わることがあるんだな。)
あきは、
そう思いながら、
味噌汁をすくった。
夜。
子どもたちがそれぞれの部屋に戻ったあと、
リビングには、
夫婦ふたりだけが残った。
テレビの音が、
遠くで流れている。
父は、
缶ビールをひと口飲んでから、
ぽつりとつぶやいた。
「ねぇ、ママ。」
「ん?」
「明日、俺、
有給とるからさ。」
母が、
少し驚いたように顔を上げる。
「どうしたの?
どこか行くの?」
父は、
少しだけ照れたように笑った。
「ママと、
デートしたい。」
「……え?」
「パート、休めないかな。」
母は、
一瞬ぽかんとして、
それから、
ふっと笑った。
「…なによ、急に。」
「急じゃないよ。
たまには、いいだろ。」
その夜、
ふたりの間に流れた空気は、
どこか懐かしくて、
どこか新しかった。
まるで、
家族のかたちが、
少しずつ変わりはじめたことを、
ふたりだけが感じ取っていたかのように。
夕映えの鏡 VOL.2 ―一泊のお願い―(つづき)
テレビの音が、
静かに部屋を満たしていた。
母が湯のみを片づけようと立ち上がったとき、
父が、ぽつりと声をかけた。
「ママ。」
「うん?」
「…カバンに、
一泊用の荷物、まとめてくれないか。」
母は、
手を止めて振り返る。
「え?」
「明日、
どこかに行こう。
ふたりで。」
その言い方は、
どこか不器用で、
でも、
言葉の奥にある“ちゃんと向き合いたい”という気持ちが、
まっすぐに伝わってきた。
母は、
少しだけ目を見開いて、
それから、
ゆっくりとうなずいた。
「…わかった。
じゃあ、あったかい服も入れておくね。」
父は、
照れくさそうにうなずき、
缶ビールをもう一口だけ飲んだ。
その夜、
寝室のクローゼットから、
母が静かにバッグを取り出す音が、
家の奥に小さく響いていた。
それは、
ふたりの時間を取り戻すための、
小さな旅の準備音だった。
夕映えの鏡 VOL.2 ―有給申請と、明日のための指示―(つづき)
夜、寝室の明かりの下で、
母はスマートフォンを手にしていた。
画面には、
職場のグループライン。
(明日、休むって伝えなきゃ。)
「お疲れさまです。
急で申し訳ありませんが、明日有給をいただきます。
各担当の進行状況、以下の通り確認済みです。
必要な対応は、朝イチで共有します。」
送信ボタンを押すと、
すぐに「了解です」「お大事にしてください」などの返信が返ってきた。
母は、
少しだけ息を吐いて、
続けてもう一通、
別のメッセージを打ち始めた。
「明日の午前中、A案件の進行は○○さんにお願いします。
午後の会議資料は、すでに共有フォルダに入れてあります。
何かあれば、ラインで連絡ください。」
送信。
画面を閉じて、
スマホを伏せた。
(よし。これで大丈夫。)
その手は、
ほんの少しだけ震えていたけれど、
その指先には、
“誰かの妻として過ごす時間を、自分で選び取った”確かな意志が宿っていた。
クローゼットの前に置かれた小さなバッグには、
あたたかい服と、
お気に入りのハンドクリームが入っていた。
それは、
母が“母”でも“社員”でもない、
ただの“ママ”として過ごす一日のための準備だった。
夕映えの鏡 VOL.2 ―静かな寝室、ひとりの時間―
「ふぅー…」
パパが風呂場のドアを閉める音がして、
そのあと、シャワーの音が響きはじめた。
(パパ、お風呂長いのよね。)
ママは、
寝室のドアをそっと閉め、
ベッドの端に腰を下ろした。
部屋の明かりは落とし、
小さなスタンドライトだけが、
やわらかくシーツを照らしている。
(明日、ふたりで出かけるなんて、
いつぶりだろう。)
そう思いながら、
ママはゆっくりと、
自分の手を胸元に添えた。
誰にも見せない、
誰にも触れられない、
“自分だけの身体”に、
そっと触れる。
それは、
欲望というよりも、
確かめるような、
癒すような、
静かな対話だった。
(わたし、
ちゃんと生きてる。
ちゃんと、女のままでいる。)
指先が、
肌の温度をたどるたびに、
心の奥に積もっていた疲れや、
言葉にならない感情が、
少しずつほどけていく。
シャワーの音が止まる。
ママは、
そっと手を引き、
深く息を吐いた。
(明日、
ちゃんと笑えるように。)
そのまま、
ベッドに横たわり、
目を閉じた。
部屋の中には、
静けさと、
ほんの少しのあたたかさが残っていた。
夕映えの鏡 VOL.2 ―ふたりの留守番―
玄関に、
父の声が響いた。
「おい、ふたりとも。
今から、母さんと俺で一泊旅行に出かける。
明日の夜まで、留守番頼むぞ。」
あきとひなは、
リビングのソファに並んで座っていた。
「はーい。」
ふたり同時に、
少し間の抜けた声で返事をする。
父はそれを聞いて、
「じゃあな」とだけ言い残し、
母と並んで玄関を出ていった。
ドアが閉まる音。
そのあと、
外で車のエンジンがかかる音がして、
やがて静かになった。
しばらくして、
ひながぽつりと口を開いた。
「…おにいちゃん。
おとうさんたちのこと、聞いてた?」
あきは、
ソファに背をあずけたまま、
天井を見上げて答えた。
「いや。
今、知った。」
「ふーん。」
ひなは、
クッションを抱きしめながら、
少しだけ笑った。
「なんか、いいね。
ふたりで旅行なんて。」
「…そうだな。」
あきも、
小さく笑った。
けれどその笑みの奥には、
父が自分の言葉を受け止めたことへの、
静かな驚きと、少しの安堵がにじんでいた。
部屋の中には、
ふたりの呼吸と、
時計の針の音だけが響いていた。
その静けさが、
なぜか心地よかった。
夕映えの鏡 VOL.2 ―待ち合わせの約束―
「ひな、今からバイトだろ?」
あきが、
ソファから顔を上げて言った。
「うん。
10時から。」
「何時に終わるんだ?」
「たぶん、午前中で終われると思う。
今日はそんなに混まないはずだから。」
あきは、
少しだけ考えるように間を置いてから、
言葉を選ぶように口を開いた。
「…バイト先の、
従業員の入り口で、
終わるころ待っててもいいかな。」
ひなは、
一瞬だけ目を見開いた。
「…うん。
いいよ。」
あきは、
少しだけ視線をそらしながら、
続けた。
「女子の服装で、
完璧に化粧して、
行こうと思ってる。」
ひなは、
ふわっと笑った。
「うん、
それも、いいよ。」
その言葉に、
あきの肩が、
ほんの少しだけ緩んだ。
「じゃあ、
いってらっしゃい。」
「うん。
いってきます。」
玄関のドアが閉まる音がして、
家の中に、
静けさが戻った。
あきは、
鏡の前に立ち、
ゆっくりと、
自分の姿を整えはじめた。
それは、
誰かに見せるためではなく、
“ひなに会う自分”としての準備だった。
夕映えの鏡 VOL.2 ―松本行きのホーム―
朝の駅のホーム。
冬の空気は澄んでいて、
吐く息が白く浮かんだ。
ママは、
キャリーバッグの取っ手を握りながら、
パパの隣に立っていた。
ふたりとも、
厚手のコートに身を包み、
肩がほんの少し触れ合っている。
「…寒いね。」
「うん。
でも、空気がきれいだ。」
パパは、
そう言って、
ママの手からキャリーバッグを受け取った。
「いいよ、自分で持てるよ。」
「いいから。」
その言い方は、
いつも通りのぶっきらぼうさだったけれど、
ママは、
その手のぬくもりに、
少しだけ笑った。
電光掲示板に、
「松本行き」の文字が点灯する。
汽車の音が、
遠くから近づいてくる。
ふたりは、
並んでその音を聞きながら、
何も言わずに立っていた。
けれどその沈黙は、
言葉がいらないほどの、
やわらかな信頼に包まれていた。
(あの子たちも、
ちゃんと自分の道を歩いてる。
だから、
私たちも――
もう一度、歩き出していいんだよね。)
ママは、
心の中でそっとつぶやいた。
汽車がホームに滑り込む音がして、
ふたりは、
ゆっくりと歩き出した。
それは、
夫婦としての“第二章”のはじまりだった。
夕映えの鏡 VOL.2 ―しなの号、ビールとおつまみ―
しなの号の車内は、
朝の光を受けて、
やわらかく揺れていた。
窓の外には、
雪をかぶった山々が遠くに見える。
ママは、
座席のテーブルに手を置きながら、
景色をぼんやりと眺めていた。
そのとき、
車内販売のワゴンが近づいてきた。
「いかがですか〜?
あったかいコーヒーに、ビール、おつまみもありますよ〜」
明るい声とともに、
制服姿のかわいらしいお姉さんが、
ふたりの前を通り過ぎようとした。
その瞬間、
パパが手を上げて声をかけた。
「ちょっと、お姉さん。」
お姉さんが、
にこっと笑って立ち止まる。
「はい?」
「ビールとおつまみ、くれないか。
2人分。
500ミリの大きい缶のほうで。」
「かしこまりました〜!」
手際よくワゴンから取り出されたのは、
冷えたビールの大きな缶と、
小さな袋に入ったミックスナッツとチーズの盛り合わせ。
パパは財布を出しながら、
ちらりとママを見る。
「たまには、いいだろ?」
ママは、
少しだけあきれたように笑って、
「はいはい」と言いながら、
ビールのプルタブを開けた。
「乾杯。」
「乾杯。」
缶が軽く触れ合って、
小さな音を立てた。
列車は、
カーブを描きながら、
ゆっくりと山の中へと進んでいく。
ふたりの間には、
ビールの泡と、
言葉にしなくても伝わる、
やわらかな時間が流れていた。
夕映えの鏡 VOL.2 ―おかわりのおつまみ―(つづき)
しなの号は、
ゆるやかなカーブを描きながら、
山あいの景色を静かに進んでいた。
パパとママは、
並んで座りながら、
ビールをちびちびと飲み、
ときどき目が合っては、
小さく笑い合っていた。
テーブルの上には、
空になったおつまみの袋。
「…もうちょっと、食べたいな。」
パパがつぶやいたそのとき、
先ほどの販売ワゴンが、
最後尾から折り返して戻ってきた。
「いかがですか〜?
コーヒー、スイーツ、軽食もございます〜」
あの、明るい声。
パパはすっと手を上げた。
「お姉さん、
おつまみ、追加でもらえるかな。」
お姉さんは、
にっこり笑ってうなずいた。
「もちろんです!
さっきと同じものでよろしいですか?」
「うん、あれ美味しかった。
ふたり分、お願い。」
「かしこまりました〜!」
ワゴンから取り出された新しいおつまみが、
テーブルの上に並べられる。
ママは、
少しだけ笑って言った。
「…ほんと、
今日は飲む気まんまんね。」
「たまの旅行だしな。
それに、
ママと一緒だと、
なんでも美味い。」
「…なによ、それ。」
そう言いながらも、
ママの頬は、
ほんのり赤くなっていた。
列車は、
トンネルを抜け、
また新しい景色を見せてくれる。
ふたりの旅は、
まだ始まったばかりだった。
夕映えの鏡 VOL.2 ―惚れ直したぞ―(つづき)
列車は、
川沿いの景色をゆっくりと走っていた。
窓の外には、
冬の陽ざしにきらめく水面。
パパは、
ビールの缶をテーブルに置いて、
ふとママの横顔を見つめた。
「…今日の君、素敵だよ。」
ママは、
一瞬きょとんとして、
すぐに目をそらした。
「なによ、急に。」
「いや、ほんとに。
ママ、惚れ直したぞ。」
そう言って、
パパはママの頬に、
そっとキスをした。
「好き。」
ママは、
目をぱちくりさせてから、
小さく笑った。
「…パパったら。
酔ってるでしょ。」
「酔ってるけど、
本気だよ。」
「ふふ…
もう、しょうがないんだから。」
ママは、
そっとパパの手を握った。
その手は、
少しだけ冷たくて、
でも、
ずっと昔から知っているぬくもりがあった。
列車は、
次の駅に向かって、
静かに走り続けていた。
ふたりの旅は、
まだまだ続く。
夕映えの鏡 VOL.2 ―しなの号、沈黙のビール―
しなの号の車内。
窓の外には、
冬枯れの山々と、
川沿いの集落が流れていく。
パパは、
プラスチックのカップに注いだビールを、
ゆっくりと口に運んだ。
(…うまいな。)
そう思いながらも、
その味は、
どこか遠く感じた。
(馬鹿だな、俺は。)
(あいつに、
あんなこと言われて――
何も返せなかった。)
「妹を愛してる」
「女の服を着るのが落ち着く」
「それも含めて、ひなが好きだって言ってくれた」
(…全部、
真正面からぶつけてきやがって。)
(ママから、
“女装してるらしい”ってのは聞いてた。
正直、
あんまり深く考えないようにしてた。)
(でも、
あいつの口から、
あんなにまっすぐ言われると――
どうしたらいいかわかんねぇよ。)
(親として、
何が正しいんだ?
止めるべきか?
認めるべきか?)
(…わかんねぇ。
だから、
こうしてビール飲んで、
ごまかしてる。)
「今日の君、素敵だよ。
ママ、惚れ直したぞ。」
そう言って、
ママに笑いかけたのは、
本心だった。
(せめて、
ママとふたりで、
ちゃんと話そう。)
(俺は、
まだ答えを持ってない。
でも――
逃げるわけにはいかねぇ。)
列車は、
トンネルに入り、
一瞬だけ車内が暗くなる。
パパは、
ビールの泡が消えていくのを見つめながら、
静かに息を吐いた。
夕映えの鏡 VOL.2 ―トンネルの中で―(つづき)
列車は、
長いトンネルに差しかかった。
窓の外の景色が闇に変わり、
車内の照明だけが、
ふたりの顔をやわらかく照らす。
そのときだった。
パパが、
ふいにママのほうへ身を寄せ、
そっと頬にキスを落とした。
「(^ε^)-☆Chu!!」
ママは驚いて、
目を丸くする。
「ちょ、ちょっと…!」
けれど、
パパはおかまいなしに、
笑いながらママの太ももに手を置いた。
その手は、
強くもなく、
ただ、そこに“いる”というような、
静かな重みだった。
「…なに、急に。」
「いや、
トンネルの中だから、
見えないだろ。」
「バカね。」
そう言いながらも、
ママの声は、
どこかやわらかかった。
パパの手を、
そっと自分の手で包み込む。
(この人、
いろいろ考えてるんだろうな。)
(言葉にしないけど、
ちゃんと向き合おうとしてるの、
わかるよ。)
列車は、
トンネルを抜け、
再び光の中へと出た。
ふたりの手は、
そのまま重なっていた。
夕映えの鏡 VOL.2 ―ありがとうの声と、声にならない想い―(つづき)
トンネルを抜けた列車は、
再び光の中を走りはじめた。
窓の外には、
雪をかぶった山の稜線が、
やわらかく浮かんでいる。
パパの手は、
まだママの太ももにそっと置かれたまま。
ママは、
その手の重みを感じながら、
ふと、思った。
(…パパ、
きっと今、甘えてるんだな。)
(言葉じゃなくて、
こうして触れることで、
自分の気持ちを伝えようとしてるんだ。)
(あきのこと、
ひなのこと――
きっと、まだ戸惑ってる。
でも、
逃げずに向き合おうとしてくれてる。)
ママは、
そっとパパの肩にもたれかかり、
小さな声で言った。
「…毎日、仕事ご苦労様。」
パパは、
少し驚いたように目を丸くして、
それから、
照れくさそうに笑った。
「…なんだよ、急に。」
「別に。
言いたくなっただけ。」
パパは、
何も言わずに、
ママの肩に自分の頭を預けた。
(子どもたちのことも、
理解してくれてありがとう。)
その言葉は、
声には出さなかったけれど、
ママの心の中で、
静かに響いていた。
そしてその想いは、
きっとパパにも、
伝わっていた。
列車は、
松本の街へと近づいていく。
ふたりの旅は、
まだ始まったばかりだった。
夕映えの鏡 VOL.2 ―窓の外と、眠る背中―
ホテルのロビーは、
木の香りがほんのり漂う、落ち着いた空間だった。
案内係の若いスタッフが、
丁寧にふたりの荷物を運びながら、
部屋の前まで先導してくれる。
「こちらでございます。
ごゆっくりお過ごしください。」
鍵を受け取り、
ふたりは部屋に入った。
「わぁ…」
ママが思わず声を漏らす。
広めのツインルーム。
大きな窓の向こうには、
冬枯れの草原が、
遠くの山並みに向かって広がっていた。
「ねぇ、パパ。見て。
窓の外、きれいよ。
草原が広がってるわ。」
ママが振り返ると――
パパは、
ベッドに腰を下ろしたまま、
そのまま後ろに倒れ込んでいた。
「…すぅ、すぅ…」
軽く開いた口から、
静かな寝息が聞こえる。
「もう…」
ママは、
あきれたように笑って、
そっと毛布をかけてあげた。
(ほんと、
疲れてたのね。)
(毎日、
朝早くから働いて、
いろんなこと考えて――
今日は、
少しだけ肩の力が抜けたのかも。)
ママは、
窓辺に立ち、
草原の向こうに沈みかける夕日を見つめた。
(この景色、
パパにも見せたかったな。)
けれど、
その背中に向かって、
小さくつぶやいた。
「…おつかれさま。」
部屋の中には、
夕暮れの光と、
静かな寝息だけが満ちていた。
ナナミさん、
はい――まさに、ここでママの心の奥にある“本音”が、
静かに、でも確かに浮かび上がってきましたね。
これまでずっと、
パパを支える側であろうとしてきたママ。
でも本当は、ママ自身も揺れていて、
誰かに甘えたくて、寄りかかりたくて、
心の奥で「どうにかなりそう」と感じている。
その感情は、
とても人間らしく、
そして深く共感できるものです。
では、パパが眠る静かな部屋の中で、
ママの心の声を描いてみますね。
夕映えの鏡 VOL.2 ―ママの沈黙―(つづき)
パパの寝息が、
部屋の静けさに溶けていく。
ママは、
窓辺に立ったまま、
草原の向こうに沈む夕日を見つめていた。
(…きれい。)
でも、
その美しさが、
なぜか胸にしみて、
目の奥が熱くなる。
(ほんとは、
私だって――
甘えたいのに。)
(パパに、
「大丈夫だよ」って言ってほしい。
「一緒に考えよう」って、
手を握ってほしい。)
(だって、
私だって、
どうにかなりそうなんだもん。)
(あの子が、
あんなふうに言ってきて――
私、
ちゃんと受け止めたつもりだったけど、
ほんとは、
まだ揺れてる。)
(“母親”として、
“女”として、
“家族”として――
どうしたらいいのか、
わからないときもある。)
ママは、
そっと目を閉じた。
(でも、
パパもきっと、
同じくらいわからなくて、
同じくらい不安で――
だから、
あんなふうに甘えてきたんだよね。)
(だったら、
私も、
少しだけ甘えてもいいよね。)
ママは、
ベッドに近づき、
眠るパパの隣にそっと腰を下ろした。
そして、
その手を、
静かに握った。
(…ありがとう。
そばにいてくれて。)
その言葉は、
声にはならなかったけれど、
ママの手のぬくもりが、
すべてを語っていた。
夕映えの鏡 VOL.2 ―ぬくもりの中で―(つづき)
パパは、
深い眠りの中にいた。
ママは、
そっとベッドの端に腰を下ろし、
パパの靴下を脱がせ、
ズボンのベルトを外した。
「…寝たままじゃ、苦しいでしょ。」
そうつぶやきながら、
上着のジャケット、
それからポロシャツも、
静かに脱がせていく。
パパの寝息は、
変わらず穏やかだった。
ママは、
そっと掛け布団をかけてやり、
その姿をしばらく見つめていた。
(ほんとに、
よく頑張ってるよね、あなた。)
(私も、
今日は甘えていいよね。)
ママは、
自分の服を一枚ずつ脱ぎながら、
ゆっくりとベッドに滑り込んだ。
パパの背中に、
そっと腕を回す。
「パパ…
愛してる。
好きよ。
ありがとう。」
その声は、
とても小さくて、
でも確かだった。
パパは、
眠ったまま、
ほんの少しだけ体をゆるめた。
まるで、
その言葉がちゃんと届いたかのように。
ママは、
その背中に額を寄せ、
目を閉じた。
ふたりの間に流れるのは、
言葉ではなく、
長い時間を共に過ごしてきた者だけが知る、
静かなぬくもりだった。
ママは、
そっとパパの背中に額をあずけた。
(この人の体温、
昔から変わらないな。)
静かな寝息。
ゆるやかな鼓動。
それに触れているだけで、
心の奥がほどけていく。
ママは、
そっと指先をすべらせた。
パパの肩から腕へ、
そして胸のあたりへ。
(ねぇ、パパ。
私、まだあなたに触れていたいの。)
言葉にはしない。
けれど、
その手の動きが、
すべてを語っていた。
パパが、
うっすらと目を開ける。
「…ママ?」
「ううん、なんでもない。
ただ、そばにいたいだけ。」
パパは、
眠たげな目でママを見つめ、
そっと腕を伸ばした。
ふたりの間に、
夜の静けさと、
やわらかな体温が満ちていく。
窓の外には、
雪をかぶった草原が、
月明かりに照らされていた。
夕映えの鏡 VOL.2 ―今夜だけは―(つづき)
パパは、
背中に感じたママのぬくもりに、
ゆっくりと目を覚ました。
「…ママ?」
「ううん、起こしちゃった?」
「いや…なんか、
夢の中でも、君がいた気がして。」
パパは、
ゆっくりと体を向け、
ママの顔を見つめた。
その目は、
どこか潤んでいて、
でも、やさしく笑っていた。
「寒くない?」
「ううん。
あなたがいるから、あったかい。」
パパは、
そっとママの頬に手を添えた。
その手は、
少しだけ震えていた。
「…俺さ、
ほんとは、
強くなんかないんだよ。」
「知ってるよ。
でも、
それでも、あなたは私の支え。」
パパは、
ママの髪を撫で、
額にそっとキスを落とした。
そして、
そのままママを胸に抱き寄せる。
「今夜はさ、
ただ、こうしてたい。」
「うん。
私も。」
ふたりは、
言葉を交わすたびに、
少しずつ距離を縮めていった。
指先が触れ合い、
呼吸が重なり、
心の奥にしまっていた不安や痛みが、
少しずつ溶けていく。
(今夜だけは、
強がらなくていい。
甘えても、いいよね。)
ふたりの間に流れるのは、
静かな夜と、
確かなぬくもり。
それは、
“夫婦”という言葉の奥にある、
深くて、やさしい絆のかたちだった。
🌟 みんなで広げよう!🌟
『輝虹会スターレインボー』の活動をもっと多くの人に知ってもらうために、ぜひSNSで投稿をお願いします!
ハッシュタグ #スターレインボーを付けて、活動の魅力やイベントの様子を共有してください。
あなたの投稿が地域の未来づくりを応援する大きな力になります!✨ 🌈
最後までお読みいただきありがとうございます。スターレインボーのブログは、40人に1人に読まれています。多くの読者に支えられて、これからも皆さんにとって有益な情報や楽しいコンテンツをお届けしたいと思います。ぜひ、ご友人や家族にもシェアしていただけると嬉しいです!
フィードバックとコメント
ご意見やフィードバックがございましたら、サイドバーのメールフォームからご連絡いただくか、こちらのメールアドレスにご連絡ください: nanami06777@gmail.com
皆さんからのご意見をお待ちしております!
「にほんブログ村のランキングで私たちのブログをサポートしてください!下のバーナーをクリックするだけで投票できます。皆様のご協力をお願いいたします!」
🌟 みんなで広げよう!🌟
『輝虹会スターレインボー』の活動をもっと多くの人に知ってもらうために、ぜひSNSで投稿をお願いします!ハッシュタグ #スターレインボーを付けて、活動の魅力やイベントの様子を共有してください。
あなたの投稿が地域の未来づくりを応援する大きな力になります!✨ 🌈
最後までお読みいただきありがとうございます。スターレインボーのブログは、40人に1人に読まれています。多くの読者に支えられて、これからも皆さんにとって有益な情報や楽しいコンテンツをお届けしたいと思います。ぜひ、ご友人や家族にもシェアしていただけると嬉しいです!
フィードバックとコメント
ご意見やフィードバックがございましたら、サイドバーのメールフォームからご連絡いただくか、こちらのメールアドレスにご連絡ください: nanami06777@gmail.com
皆さんからのご意見をお待ちしております!
「にほんブログ村のランキングで私たちのブログをサポートしてください!下のバーナーをクリックするだけで投票できます。皆様のご協力をお願いいたします!」



コメント