🌑 外伝1「夜の間」訪問記・ある男子の語り

俺は、あの展示に行った。

正直、最初はちょっとした興味だった。
「性と身体の展示」って聞いて、
なんとなく、見てみたいと思った。

でも、あの屋敷に入った瞬間、
何かが違うって、すぐにわかった。

静かすぎる。
誰もしゃべらない。

一つ目の部屋で、声だけの映像を見た。
息の間が、やたらとリアルで、
なんだか、胸がざわざわした。

二つ目の部屋で、目隠しされた人形たちを見たとき、
俺は、笑えなかった。
たぶん、笑ってはいけないって、
身体が先に気づいてた。

三つ目の部屋。
内診台。

あの空間に、俺がいていいのか、わからなかった。
でも、目をそらすのも違う気がして、
ただ、立ち尽くしてた。

四つ目の部屋。
石膏の身体たち。

どれも、誰かの身体だった。
でも、どれも“見せるため”じゃなかった。

俺は、見ていた。
でも、見られていたのは、たぶん俺の方だった。

最後の部屋。
“静かな部屋”。

誰にも見られない場所で、
俺は、服を脱いで、
自分の身体を見た。

なんで、こんなに恥ずかしいんだろう。

たぶん、俺はずっと、
“見ること”しかしてこなかったんだ。

触れることも、触れられることも、
怖かったんだと思う。

あの部屋で、
初めて“自分の身体がここにある”って、
思えた気がした。


🌘 「夜の間」訪問記・女子大生の語り

ゼミの先生が、ぽろっと言った。
「あの展示、行ってみたら?あなたの卒論テーマに近いと思うよ」

私のテーマは、“性教育における沈黙の構造”。
なんか、難しそうに聞こえるけど、
要は「なぜ、性の話って、こんなに言いにくいのか」ってこと。

だから、行ってみた。

山のふもとの古い屋敷。
畳の匂い。
ぎし、ぎし、と床が鳴るたびに、
自分の身体の重さを思い出す。

最初の部屋で、声だけの映像を見た。
息の間に、言葉にならないものが詰まってて、
それが、すごくリアルだった。

二つ目の部屋。
四十八手の人形たち。
顔がないのに、恥ずかしい。
でも、どこかで見たことがある。

たぶん、ネットの中。
たぶん、講義のスライド。
たぶん、私の検索履歴。

三つ目の部屋。
内診台。

私は、まだあの台に乗ったことがない。
でも、あの空間に立ったとき、
なぜか、身体がこわばった。

「診られる」って、
こんなにも無防備なんだ。

四つ目の部屋。
石膏の身体たち。

どれも、誰かの身体。
どれも、誰かの記憶。

その中に、
自分の身体に似た像があった。

でも、私は笑わなかった。

なんか、
「ありがとう」って思った。

最後の部屋。
“静かな部屋”。

誰にも見られない場所で、
私は、自分の胸に手を当ててみた。

触れたことがないわけじゃない。
でも、
こんなふうに触れたのは、初めてだった。

これは、誰のための身体?

たぶん、
ずっと“誰かの目”の中でしか、
自分を見てこなかった。

でも、
あの部屋で、
初めて“自分の目”で見た気がした。

そして、
少しだけ、
好きになれた気がした。



🌑 「夜の間」訪問記・現役AV女優の語り

仕事の合間に、ふと思い立って行った。
「夜の間」っていう展示。

誰にも言わずに、ひとりで。

こういうの、苦手なんだけど。
でも、なんか、呼ばれた気がした。

最初の部屋。
声だけの映像。
息の間が、やけにリアルで、
それだけで、胸がざわついた。

二つ目の部屋。
四十八手の人形たち。

ああ、これ、
私、やったことあるな。

でも、
こんなに“顔がない”って、
怖いんだ。

三つ目の部屋。
内診台。

撮影でも、病院でも、
何度も乗った。

でも、
この部屋の静けさは、
どこにもなかった。

誰も見てないのに、
すごく見られてる気がした。

四つ目の部屋。
石膏の身体たち。

その中に、
たぶん、私の身体に似た像があった。

でも、
カメラの前で脱ぐのと、
この空間で“見られる”のは、
まったく違った。

ここでは、
「演じる場所」がなかった。

最後の部屋。
“静かな部屋”。

誰にも見られない場所で、
私は、
自分の胸に手を当てた。

触れ慣れてるはずなのに、
なんか、泣きそうになった。

これは、
誰のための身体だったんだろう。

あの部屋で、
初めて“自分のために触れた”気がした。

たぶん、
私は、
「見られること」に慣れすぎてた。

でも、
あの静けさの中で、
少しだけ、
自分の身体が戻ってきた気がした。



🌘 「夜の間」訪問記:付き合いたてのふたり

付き合って、まだ三週間。
彼と出かけるのは、今日で三度目だった。

「行ってみたい展示があるんだ」
そう言ったとき、彼は少し驚いた顔をしたけど、
「いいよ」と笑ってくれた。

山のふもとの古い屋敷。
展示の名前は、「夜の間(よのま)」。

靴を脱いで、畳の廊下を歩く。
ぎし、ぎし、と床が鳴るたびに、
私の身体の中まで音が響いてくる気がした。

最初の部屋。
声だけの映像。
顔の見えない誰かが、ぽつぽつと語っている。
言葉と、言葉のあいだの沈黙。
その“間”に、何かが詰まっている気がした。

「なんか…すごいね」
彼が小さくつぶやいた。
私はうなずいたけど、うまく言葉が出なかった。

二つ目の部屋。
四十八手のポーズをとった人形たち。
どれも目隠しされていて、顔がない。
でも、身体のラインは妙にリアルだった。

「これ、笑っていいのかな…」
彼が苦笑いする。
「ううん、私もわかんない」
そう答えながら、私は目をそらした。

三つ目の部屋。
畳の上に、内診台。
その上に、首のない女性の身体。

彼は、少し戸惑ったように立ち止まった。
私は、ただ見つめた。
何も言わずに。

「…大丈夫?」
「うん」
でも、声が震えていた。

私はまだ、あの台に乗ったことがない。
でも、
“診られる”って、こういうことなんだって、
身体が先に理解していた。

四つ目の部屋。
石膏の身体たちが、畳の上に並んでいた。

その中に、
自分の身体に似た像があった。

「…似てる?」
彼が小声で聞いた。
私は少し笑って、
「ナイショ」って答えた。

彼は、それ以上何も言わなかった。
その沈黙が、ありがたかった。

最後の部屋。
“静かな部屋”。

「行ってきていい?」
「うん。待ってる」
彼の声は、少しだけ小さかった。

扉を閉める。
畳の匂い。
低い天井。
小さなマットレスと、消臭スプレー。

私は、
自分の太ももに手を置いた。
触れたことがないわけじゃない。
でも、
「これから誰かに触れられるかもしれない」って思ったら、
急に、自分の身体が他人みたいに感じた。

ここで、
初めて思った。

「私は、まだ怖いんだ」って。

でも、
それを言ってもいいのかもしれないって、
少しだけ思えた。

扉を開けると、
彼が待っていた。

「どうだった?」
「…なんか、自分の身体が、
ちょっとだけ戻ってきた気がする」
「無理しなくていいよ」
「うん。ありがとう」

私は、
彼の手を握った。

まだ、全部は言えないけど。
でも、
ちゃんと、自分の身体のこと、
自分の言葉で話せるようになりたいと思った。


🌑 「夜の間」訪問記・夫の語り

妻に誘われて、展示を見に行った。
「夜の間」っていう名前だった。

正直、最初はよくわからなかった。
でも、彼女が「行きたい」って言ったから、
それだけで、行く理由にはなった。

山のふもとの古い屋敷。
靴を脱いで、畳の廊下を歩く。

ぎし、ぎし。

妻の足音が、少し先を歩いていた。

最初の部屋。
声だけの映像。

女の人の声。
震えていた。

何を言っているのか、
最初はうまく聞き取れなかった。

でも、
息を飲む音、
言い淀む間、
そのすべてが、
妙に胸に刺さった。

二つ目の部屋。
四十八手の人形たち。

目隠しされた身体。
顔のない快楽の型。

妻が、少しだけ立ち止まった。

「どうした?」

「ううん、なんでもない」

その“なんでもない”が、
なんだか遠く感じた。

三つ目の部屋。
内診台。

妻が、少しだけ息を詰めたのがわかった。

「大丈夫?」

「うん」

でも、
その“うん”は、
本当の“うん”じゃなかった。

俺は、
彼女の身体のことを、
どれだけ知ってるつもりでいたんだろう。

四つ目の部屋。
石膏の身体たち。

どれも、誰かの身体。
でも、
どれも、誰のものでもないようだった。

妻が、じっと見つめていた。

俺は、
その横顔を見ていた。

最後の部屋。
“静かな部屋”。

一人ずつしか入れない。

妻が先に入った。

戻ってきたとき、
彼女は、少し泣いていた。

でも、笑っていた。

「大丈夫?」

「うん。…ありがとう」

俺は、何も言えなかった。

でも、
その手を、そっと握った。

たぶん、
俺たちは、
まだ話していないことがある。

でも、
話してもいいのかもしれない。

そう思えた夜だった。


🌙 別枠案:「夜の間」訪問記・娘の語り(母と来た中学生)

「行ってみようか」って言ったのは、お母さんだった。

「性のこと、ちゃんと話せる場所があるらしいよ」

私は、ちょっとだけ嫌な顔をした。
でも、断れなかった。

だって、
お母さんが、こんなふうに誘ってくるの、
たぶん、はじめてだったから。

山のふもとの古い屋敷。
「夜の間」っていう展示。

靴を脱いで、畳の廊下を歩く。

お母さんと並んで歩くの、
なんだか変な感じだった。

最初の部屋。
声だけの映像。

女の人の声が、
何かをこらえるように話していた。

お母さんが、私の手をそっと握った。

私は、
その手を振り払いたくなったけど、
できなかった。

二つ目の部屋。
四十八手の人形たち。

目をそらした。
でも、
ちらっと見てしまった。

お母さんは、
何も言わなかった。

それが、
逆に恥ずかしかった。

三つ目の部屋。
内診台。

私は、
その台を見て、
なぜか、
すごく怖くなった。

「大丈夫?」

お母さんが聞いてきた。

私は、
「うん」って言ったけど、
声が小さかった。

四つ目の部屋。
石膏の身体たち。

いろんな身体があった。

太ってるのも、
傷があるのも、
胸が小さいのも、
いろいろ。

「どれも、きれいだね」

お母さんが言った。

私は、
なんて返せばいいかわからなくて、
黙っていた。

最後の部屋。
“静かな部屋”。

一人ずつしか入れない。

「行ってきなさい」

お母さんが、
背中をそっと押した。

扉を閉める。

畳の匂い。
小さなマットレス。

私は、
自分の手を見た。

そして、
自分の胸に、そっと触れてみた。

なんだか、
よくわからない気持ちになった。

でも、
「これは、私の身体なんだ」って、
そのとき、ちゃんと思った。

扉を開けると、
お母さんが待っていた。

「どうだった?」

「…うん。なんか、変な感じ」

「そうだよね」

お母さんは、
私の頭を、そっとなでた。

「でも、
そういうの、大事なんだよ」

私は、
うなずいた。

まだ、よくわからないけど。

でも、
この人となら、
もう少し話してもいいかもしれないって、
ちょっとだけ思った。




🌒 「夜の間」訪問記・中3男子の語り(父と来た)

「行ってみるか」

父さんがそう言ったとき、
俺は「べつに」とだけ答えた。

でも、
たぶん、ちょっとだけうれしかった。

こんなふうに、ふたりで出かけるの、
小学生のとき以来だったから。

「夜の間」っていう展示。
性と身体のことを考える場所、らしい。

正直、ちょっとビビってた。

山のふもとの古い屋敷。
靴を脱いで、畳の廊下を歩く。

父さんの足音が、やけに大きく聞こえた。

最初の部屋。
声だけの映像。

女の人の声が、
何かをこらえるみたいに話してた。

俺は、
なんとなく、目を伏せた。

父さんは、黙って聞いてた。

二つ目の部屋。
四十八手の人形。

うわ、って思った。
でも、
見ちゃいけない気もして、
でも、見てしまった。

父さんが、
ちょっとだけ咳払いした。

俺は、
なんか笑いそうになって、
でも、笑えなかった。

三つ目の部屋。
内診台。

これは…
なんか、
すごく、重かった。

「これ、何?」

「病院で、女性が診察受けるときに使うやつだ」

「ふーん…」

それ以上、何も言えなかった。

四つ目の部屋。
石膏の身体たち。

いろんな身体があった。

俺は、
どこを見ていいかわからなくて、
でも、
目が離せなかった。

「どう思う?」

父さんが聞いた。

「…わかんない」

「そうか」

それだけだった。

でも、
それでよかった。

最後の部屋。
“静かな部屋”。

一人ずつしか入れない。

父さんが先に入った。

戻ってきたとき、
なんとなく、
目を合わせなかった。

次は俺の番。

扉を閉める。

畳の匂い。
小さなマットレス。

俺は、
自分の手を見た。

そして、
自分の胸に手を当ててみた。

なんでこんなことしてるんだろう、って思った。

でも、
なんか、
ちゃんと“自分の身体”って感じがした。

それが、
ちょっと不思議だった。

扉を開けると、
父さんが待ってた。

「どうだった?」

「…まあ、なんか、変な感じ」

「だよな」

ふたりで、
また畳の廊下を歩いた。

ぎし、ぎし。

その音が、
なんだか、
ちょっとだけ心地よかった。


🌗 「夜の間」訪問記・社員旅行で訪れた女性の語り

「え、ここ行くの?」

社員旅行のコース表を見て、思わず声が出た。

『夜の間』――性と身体をめぐる展示。

「なんか、すごいの選んだね」
「部長の奥さんが企画に関わってるらしいよ」
「へえ〜」

みんな、ちょっと笑ってた。
でも、
その笑いの中に、
少しだけ緊張が混じってるのがわかった。

山のふもとの古い屋敷。
畳の廊下を、パンプスを脱いで歩く。

ぎし、ぎし。

普段、オフィスで見る彼女たちの背中が、
今日はなんだか、違って見えた。

最初の部屋。
声だけの映像。

息を飲む音。
ためらい。

隣にいた後輩が、
そっと目を伏せた。

二つ目の部屋。
四十八手の人形たち。

「うわ、これ…」
「リアルすぎ…」

ひそひそ声が飛び交う。

私は、
なんとなく笑ってみせたけど、
胸の奥がざわついていた。

三つ目の部屋。
内診台。

誰かが「病院みたい」とつぶやいた。

私は、
何も言えなかった。

あの台に乗ったときのことを、
思い出していた。

あの冷たさ。
あの沈黙。

四つ目の部屋。
石膏の身体たち。

いろんな身体。

先輩が、
「これ、私に似てるかも」って笑った。

みんなも笑った。

私も笑った。

でも、
その笑いの中に、
何かが沈んでいった。

最後の部屋。
“静かな部屋”。

一人ずつしか入れない。

「じゃ、次どうぞ〜」

私は、
笑いながら手を振って、
扉を閉めた。

畳の匂い。
小さなマットレス。

静かすぎて、
自分の呼吸の音がやけに大きく聞こえた。

スカートの裾を整えて、
自分の膝に手を置く。

ふと、
あのときのことを思い出す。

言えなかったこと。
笑ってごまかしたこと。

「大丈夫です」って、
何度も言った自分。

でも、
本当は、
ぜんぜん大丈夫じゃなかった。

ここで、
初めて、
そのことを認めた。

誰にも見られていない場所で。

扉を開けると、
みんなが談笑していた。

「どうだった?」

「うーん、なんか…すごかった」

「だよね〜」

私は、
みんなの輪に戻った。

でも、
どこかで、
ひとりになった気がしていた。

そして、
その“ひとり”を、
少しだけ大事にしたいと思った。



🌑 「夜の間」訪問記・老婆の語り

「おばあちゃん、行ってみない?」

孫がそう言った。

「性と身体の展示なんだけど、
きっと、おばあちゃんにも見てほしい」

なんだか、
おかしな話だと思った。

でも、
あの子がそう言うなら、と思って、
ついていくことにした。

山のふもとの古い屋敷。

靴を脱いで、
畳の廊下を歩く。

ぎし、ぎし。

若いころ、
嫁いだ家の廊下も、
こんな音がした。

最初の部屋。
声だけの映像。

女の人の声が、
ぽつり、ぽつりと語っていた。

「あのとき、私は、笑ってしまった」

その言葉に、
胸がつまった。

私も、
笑ってごまかしたことがある。

何度も。

二つ目の部屋。
四十八手の人形たち。

ああ、
こんなふうに、
“される側”だったなあ、と思った。

望んだことも、
望まなかったことも、
どちらも、
ただ、受け入れてきた。

三つ目の部屋。
内診台。

あの台には、
何度も乗った。

子を産むときも、
子を失ったときも。

でも、
誰にも話したことはなかった。

四つ目の部屋。
石膏の身体たち。

しわのある身体は、
ひとつもなかった。

でも、
私は、
自分の身体を思い出していた。

若いころのことじゃない。

今の、
この、
しわくちゃで、
たるんだ、
でも、
よく生きてきた身体のことを。

最後の部屋。
“静かな部屋”。

孫が、
「おばあちゃん、先にどうぞ」って言った。

私は、
そっと扉を閉めた。

畳の匂い。
小さなマットレス。

ゆっくりと、
正座をして、
手を膝に置いた。

目を閉じる。

若いころのことが、
走馬灯みたいに浮かんでは消えた。

あの夜のこと。
あの痛み。
あの沈黙。

でも、
今はもう、
怒っていない。

ただ、
「あのとき、怖かった」って、
誰かに言ってほしかっただけ。

それを、
今、
自分で自分に言ってあげた。

「よく、生きてきたね」って。

扉を開けると、
孫が待っていた。

「どうだった?」

「…静かで、よかったよ」

「うん」

孫が、
私の手を握った。

その手が、
あたたかくて、

私は、
もう一度、生き直せる気がした。


📷 「夜の間」記録係・カメラマンの語り

撮る、ということは、
見る、ということだ。

でも、
この展示に関わって、
初めて知った。

「見る」には、
“責任”があるってことを。

私が撮ったのは、
石膏を取る前の、
彼女たちの身体だった。

撮影の前に、
一人ひとりと話をした。

「どこを撮ってほしいですか?」
「どこは、見せたくないですか?」

その問いに、
すぐに答えられる人は、
ほとんどいなかった。

「考えたことなかった」
「わかんない」
「どこも見せたくないけど、
でも、見てほしい気もする」

その揺れを、
私は、
レンズ越しに受けとめた。

撮るたびに、
私の中の“見る目”が、
少しずつ変わっていった。

これは、
芸術じゃない。

これは、
祈りだ。

そう思った。

だから、
私は、
シャッターを押すたびに、
心の中で、
「ありがとう」と言った。

それだけが、
私にできることだった。


🩺 別枠案:「夜の間」監修・産婦人科医の語り

医者になって、二十年。

たくさんの身体を診てきた。

でも、
この展示に関わって、
初めて気づいた。

私は、
“診る”ことに慣れすぎていた。

ある日、
展示の打ち合わせで、
若い女性が言った。

「内診台って、怖いです」

その言葉に、
私は、
返す言葉を失った。

怖い。

そうか。

私にとっては“日常”でも、
彼女たちにとっては、
“非日常”であり、
“記憶”であり、
“痛み”だったんだ。

それから、
私は、
台に上がる前に、
必ず一言、添えるようにした。

「怖くないようにしますね」

それだけで、
少しだけ、
表情がやわらぐ人がいる。

医療と展示は、
まったく違う世界だと思っていた。

でも、
どちらも、
“語られなかった身体”に、
耳をすます営みなんだと、
今は思っている。

それぞれの「夜の間」。

誰かの語りの中に、 あなた自身の記憶や感情が、 ふと重なることがあるかもしれません。

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🌘 展示「夜の間」訪問記 @高橋那波美 : 輝虹会スターレインボhttps://starsrainbow777.livedoor.blog/archives/34103072.html