勇気を出して相談した日、未来が少しだけ軽くなる @高橋那波美
恋人に見せる前に。自分の身体と向き合うということ
【写真説明】
誰にも見せない場所で、未来のために自分と向き合う。
27歳の佐伯悠斗は、朝の冷たい空気を吸い込みながら、静かにクリニックの自動ドアをくぐった。数か月前にできた彼女との関係が深まり、そろそろ身体の距離も自然に近づくだろう──そう思った瞬間、胸の奥に沈んでいた不安が浮かび上がった。
自分の仮性包茎。皮が多く、普段はほとんど露出しない。痛みはないが、清潔面や見た目のことを考えると、このままではいけない気がしていた。彼女に見せることを想像すると、胸がぎゅっと縮むような恥ずかしさがあった。
受付に立っていたのは、落ち着いた雰囲気の女性、七海だった。
「ご予約の佐伯さまですね。どうぞ、こちらへ」
その柔らかな声に、張りつめていた緊張が少しだけほどけた。
問診票を書き終えると、名前を呼ばれ、診察室へ通される。
白衣の男性医師・桐生がカルテを確認しながら言った。
「仮性包茎は珍しいものではありません。皮が多いタイプの方もいますし、気になるなら治療という選択肢もありますよ」
隣では女性ナースの早瀬が、必要な器具を静かに準備していた。彼女の落ち着いた所作が、不思議と安心を与えてくれる。
悠斗は深く息を吸い、胸の奥に溜めていた言葉をゆっくりと吐き出した。
「……彼女ができて、ちゃんと向き合いたいと思ったんです。清潔面も気になっていて」
桐生は頷き、淡々と、しかし丁寧に説明を続けた。
「皮の余り具合を確認して、必要であれば切除の方針を決めましょう。無理のない範囲で進めますので、安心してください」
少し沈黙が落ちたあと、悠斗は意を決して口を開いた。
「先生……あの、僕……半分だけ頭が出るくらいがいいです」
言った瞬間、胸の奥が熱くなる。
だが桐生は穏やかに頷いた。
「仕上がりの希望があるのは大切なことですよ。自然に露出しつつ、張りすぎない形ですね。その方向で調整できます」
悠斗は、胸の奥にあったもうひとつの疑問を口にした。
「先生……その……亀頭って、全部出すのが普通じゃないんですか?」
桐生は落ち着いた声で答えた。
「“普通”という形はありません。完全に露出する方もいれば、半分だけ自然に出る方もいます。医学的には、清潔が保てて痛みや炎症がなければ、どちらも問題ありませんよ」
その説明に、悠斗は胸の奥が少し軽くなるのを感じた。
「……じゃあ僕は、半分くらい出る形がいいです。自然な感じで」
桐生はカルテに記入し、静かに言った。
「では、もうひとつ。今日この場で手術を希望されますか?」
悠斗は深く息を吸い、決意を固めるように言った。
「はい。もしお時間があるなら……今日、切ってください。入院が必要なら、それでも大丈夫です」
桐生は落ち着いた声で答えた。
「入院は必要ありません。日帰りでできます。今日の枠に空きがありますので、準備に入れますよ」
早瀬ナースが優しく補足した。
「手術前の説明と準備を、これから一緒に進めていきますね。不安なことがあれば、何でも言ってください」
診察室の空気は静かで、どこか温かかった。
悠斗は、自分の未来が少しずつ形を変えていくのを感じていた。
「……お願いします」
「お願いします。……この場で切ってください」
悠斗がそう言うと、桐生は一度だけ静かに頷いた。
「わかりました。ではまず、診察室で切除線を描きます。
その後は手術専門の医師と、手術担当のナースに引き継ぎます」
桐生は淡々と、しかし丁寧に説明を続けた。
「ここで行うのは“仕上がりのデザイン”です。
余っている皮の量、張り具合、希望される露出の程度──
それらを踏まえて、どこをどのように切除するかを決めます」
悠斗は緊張しながらも、深く頷いた。
痛みよりも、未来を選ぶ勇気のほうが強かった
「……お願いします」
桐生は必要な器具を受け取り、淡々とマーキングを進めていく。
線を描くたびに、未来の形が少しずつ決まっていくような感覚があった。
「これで切除線は完成です。
では、手術室へご案内しますね」
そう言って診察室の扉が開き、
手術担当のナース・高梨が柔らかな声で呼びかけた。
「佐伯さま、こちらへどうぞ。
手術室までご案内しますね」
廊下は静かで、どこかひんやりしていた。
高梨ナースは歩調を合わせながら、落ち着いた声で説明を続ける。
「手術は局所麻酔で行います。
痛みを感じないように、しっかり効かせてから始めますので安心してください。
麻酔が効くまでの間も、ずっとそばにいますからね」
手術室に入ると、
白いライトと、整然と並んだ器具が目に入った。
しかしその空間は思ったよりも静かで、どこか整った空気が流れていた。
高梨ナースが優しく声をかける。
「まずは横になってくださいね。
これから麻酔をします。少しチクッとしますが、すぐに落ち着きます」
悠斗は深く息を吸い、ゆっくりと横になった。
“ここまで来たんだ。
もう後戻りはしない。
未来のために、今日を選んだんだ。”
胸の奥で、静かな決意だけが確かに息づいていた。
手術室には機械の微かな音と、スタッフの落ち着いた声だけが響いていた。
白い光の下で、未来へ進む決意が静かに形になる
局所麻酔がゆっくりと効き始めるころ、
手術室には機械の微かな音と、スタッフの落ち着いた声だけが響いていた。
「佐伯さん、痛みはありませんか?」
桐生が穏やかな声で確認する。
「……はい、大丈夫です」
悠斗は緊張しながらも、はっきりと答えた。
高梨ナースが、そっと肩に手を添える。
「何かあればすぐに言ってくださいね。
呼吸はゆっくりで大丈夫ですよ」
桐生は視線を器具に戻し、淡々と作業を進めながら、
隣のナースと静かに言葉を交わした。
「縫合糸、細いほうをお願いします」
「はい、こちらです」
器具が軽く触れ合う音が、静かなリズムで続く。
「出血は少ないですね」
「ええ、順調です」
その会話は、患者を不安にさせないよう、
必要な情報だけを淡々と共有する、
“プロ同士の落ち着いたやり取り”だった。
高梨ナースが、再び悠斗に声をかける。
「佐伯さん、順調に進んでいますよ。
あと少しで縫合に入りますからね」
「……ありがとうございます」
自分の身体のことなのに、
どこか遠くで起きている出来事のように感じる。
麻酔のせいだけではなく、
“任せていい”という安心感が、胸の奥に静かに広がっていた。
桐生が最後の確認を終え、
落ち着いた声で告げた。
「はい、これで切除は終わりました。
あとは丁寧に縫っていきますね。
仕上がりが自然になるように整えます」
高梨ナースが小さく頷き、器具を手渡す。
「縫合糸、テンション少し弱めで」
「了解です」
そのやり取りは、
まるで長く組んできたチームの呼吸のように滑らかだった。
やがて桐生が、静かに手を止めた。
「終わりましたよ、佐伯さん。
とてもきれいに仕上がっています」
高梨ナースが、優しい声で続ける。
「このあと、術後のケアについて説明しますね。
ゆっくり起き上がって大丈夫ですよ」
手術室の白い光が、
どこか柔らかく見えた。
“終わったんだ。
未来のために、今日を選んだんだ。”
その実感が、胸の奥に静かに満ちていった。
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コメント
コメント一覧
“すごいな”って思いました。
自分の身体と向き合うって簡単じゃないから。
私はただ、彼が安心して過ごせるならそれでいいです。
女性側からすると、
“清潔にしてくれているか”
“痛みがないか”
そのほうがずっと大事です。
形は本当に個性だと思います。